「雪売ります 1トン1000円(輸送費別)」ーー町役場の入り口横に、こう書かれた看板を置いているのが、北海道沼田町だ。道中央部、空知管内の北西に位置する町は、1970年に最深積雪量252センチを記録している道内でも有数の豪雪地帯だ。町では、文字通りありあまるほどのドカ雪を利用して、さまざまなサービスを提供し、二酸化炭素(CO2)削減に結びつけている。

◇世界初の利雪施設 「雪専門職員」も

「スノー・クール・ライス・ファクトリー」に貯蔵される「雪中米」
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 同町利雪技術開発センター主任研究員の伊藤勲さんは、「日本でも1人か2人」という雪専門職員だ。伊藤さんは、「利雪」つまり雪を利用したさまざまなサービスや技術の開発を専門に行う。利雪といえば、08年に開かれた北海道洞爺湖サミットのメディアセンターの冷房に、「雪冷熱」を利用したことで注目を集めた。だが、同町の利雪の歴史はさらに深い。

 1996年、関税貿易一般協定(ガット)ウルグアイ・ラウンド合意による米の自由化に伴う補助金で、世界初の雪冷房米貯蔵施設「スノー・クール・ライス・ファクトリー」が完成した。約1500トンの雪を貯蔵して、気温0度・湿度100%の空気に外気を混ぜて、5度・70%の冷風を作り、2500トンのもみ米を保管する貯留びんに送って、米の品質を維持するものだ。“雪職人”の異名を持つ利雪研究の第一人者・媚山政良・室蘭工大教授の指導で建設された。伊藤さんは当時、媚山教授の研究室で、利雪の研究をしていたのだ。

 同ファクトリーで保管された米は「雪中米」のブランドで出荷されている。伊藤さんは「雪で保管したからといって高く買ってもらえるわけではないが、きちんとした品質管理がされているということで、いち早く買い手が付くんです」と話す。

◇夏まで残る「雪山」

断熱効果があるバーク材で覆われる「雪山センター」=沼田町役場提供
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 利雪のための雪は、町内の「雪山センター」で保管している。センターといっても、道路などから除雪した雪を山のように積んであるだけだ。高さ約5メートル、約5000トンの雪は、春になっても上に断熱効果があるバーク材で覆えば、10月まで十分もつという。8月には同センターの雪を使って、スキーやスノーボード、雪合戦を楽しむ「雪夏祭」が開かれる。さらに、町内の道路除排雪の全てを一か所に集約し、最大10万トンの雪を保管する「沼田式雪山センタープロジェクト」が進められている。

町民の実験室となる「雪の科学館」
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 同町にはほかに「雪の科学館」という施設がある。「科学館」というと雪利用の展示などを想像するが、実は町民のための巨大冷蔵庫だ。約400トンの雪を貯雪庫に入れ、その隣の雪室を夏でも気温5度以下、湿度80%以上に保つというもの。雪室の中では、醸造酒やみそを低温でじっくりと熟成・保管して、雪中貯蔵酒「雪なごり」や「雪中みそ」として商品化。さらに、町民が農作物を雪室で保存し、利雪の効果を感じてもらう「実験室」的な役割を持つため、「科学館」と名付けられたという。雪解け水は隣接する生涯学習センターに送られ、雪冷房に利用されている。科学館に夏に収穫したタマネギを貯蔵している女性は「タマネギの芽が出ないので、うちで作った無農薬のタマネギを一年中食べられる。ジャガイモも長期間保存できる」と笑顔で話した。

◇若者たちが「ゆきものがかり」

雪室で貯蔵される雪中酒のタンクと町民が持ち込んだ農作物
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 ほかにも「雪中そば」や「雪中しいたけ」、雪中いちご「ゆきんこ育ち さがほのか」など、さまざまなアイデアで雪を使った雪中商品が生まれている。20〜30代の若い町民らで「ゆきものがかり」というグループを作り、イベントなどを企画し、その姿は映画化もされて話題になった。金平嘉則町長は「雪の町として道外にも知られるようになり、若い人たちの機運も盛り上がってきた」と期待する。

若者たちが企画して開かれた雪夏祭=沼田町役場提供
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 伊藤さんは「元々雪室などの使い方は昔からあった。それをちょっと形を変えているだけ。雪はエネルギーが小さいので、利用するにはものを冷やすなど、ローテクでシンプルなものになる」と語る。今後は地域単位での貯雪など、小さな単位での活用を進めていくという。「地元にあるものを地元で消費する。それが一番環境にもいい。沼田町は雪がたくさんあるから、それを使うだけです」といい、「雪国に生まれて、雪を嫌いになるのではなく、利雪によって雪を自慢できるようにしてもらいたい」と話した。

 沼田町は2002年、「輝け雪のまち宣言」を行った。その一つに「雪国に生きる者としての誇りを持ち……」とうたわれている。やっかいなドカ雪を逆手に取って利用する。雪とともに生きる沼田町は、その輝きを増していくだろう。

「スノー・クール・ライス・ファクトリー」の雪室で利雪について語る沼田町利雪技術開発センターの伊藤勲・主任研究員
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文=猪狩淳一
写真=今津雅人