ヨシ刈りをする生徒たち。プロジェクトで渡良瀬遊水地の現状を知った=栃木農業高校提供
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 足尾銅山の鉱毒を訴えた田中正造が没して100年。公害の象徴から、ラムサール条約で貴重な湿原に指定された渡良瀬遊水地の近くに県立栃木農業高校がある。同校では7年前から環境科学部の活動として、村おこしプロジェクト班が、渡良瀬遊水地に生えるヨシを活用したヨシズづくりや、伝統ある麻の栽培を通じた環境保護活動に取り組み、「低炭素杯」や「地球環境大賞」など数々の賞を受賞し、2014年2月に行われた「低炭素杯2014」では、同校のヨシがトロフィーの素材として使われるなど、高い評価を受けている。

◇渡良瀬遊水地 湿原のヨシ

 1907(明治40)年に創立され、107年の歴史を持つ同校は、農業の担い手の育成が教育目標だが、小森芳次教諭は「農業だけでなく、環境の視点で地域を掘り下げてみよう」と、プロジェクトをスタートさせた。まず、渡良瀬川遊水地の環境保全に取り組んだ。

 同遊水地は栃木、群馬、埼玉、茨城の4県にまたがる3300ヘクタールの広さを持ち、湿原には1000種を超える希少動植物が生息し、2012年には貴重な湿原の保全を目的とする「ラムサール条約」に登録されている。遊水地に生えるヨシは有機物の除去などの水質改善に役立ち、周辺の農家は、刈ったヨシを活用したヨシズづくりをしてきた。昭和30年代の最盛期には230軒あったヨシズ農家も、エアコンの普及や中国産の安いヨシズが輸入されるようになって衰退し、 ヨシ刈りもされなくなったため、近年ではヨシは焼き払われるようになり、水質の悪化や生態系への影響も心配されていた。

ヨシズ農家の指導でヨシズづくりを学ぶ生徒たち=栃木農業高校提供
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◇ヨシ紙の製品化も

 プロジェクトでは、このヨシを見直すことで、湿原の保護と地域農業の振興につなげる活動に取り組んだ。ヨシズづくりをしていた農家に協力してもらい、伝統的な手編みの作業台を再現。実際にヨシズづくりをして、作業工程を冊子にまとめ、地元の小中学校やNPOなどに配布して、ヨシズづくりへの関心を高めた。また、ヨシズに適さない「くずヨシ」を堆肥(たいひ)化する研究も行い、ベンチャー企業などと連携して製品化も進めた。ヨシの繊維を生かした「ヨシ紙」も開発。大手文具メーカーも参画して商品化し、地元の自治体や学校などで実際に使われている。さらにバイオマス燃料としてペレット化して、ハウス栽培の暖房機の燃料としての活用も図っている。

 同プロジェクトのメンバーの松島茜さん(3年)は「渡良瀬遊水地やヨシのことは全く知らなかったけど、プロジェクトで植生調査をして、図鑑が作れるぐらい生物がいることや、最盛期には500万枚ものヨシズが作られていたことに驚いた。中国産のヨシズがあって、その価格にも関心を持つようになりました」と、さまざまな発見を振り返った。

◇「麻の郷」再生を

麻を刈る生徒たち。麻は3メートルにも成長する=栃木農業高校提供
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 さらにプロジェクトでは、地域で400年以上の歴史を持つ麻の栽培にも目を向けた。麻は、けがれを払うものとして、天照大神の神話に登場したり、伊勢神宮のお札に使われるなど神道では重要な植物とされ、現在でもしめ縄などに使われる。高さ3メートルにもなる麻は、1ヘクタール当たり13トンの二酸化炭素を吸収する機能も持つ。「野州麻(やしゅうあさ)」で知られる栃木は「麻の郷」とも呼ばれていたが、大麻取締法の規制で免許性となっており、作付面積の拡大や新規参入が困難で減り続けている。プロジェクトでは、援農活動として麻農家で麻栽培を体験し、麻がらをチップ化し、その抗菌作用や保湿性を生かして断熱材や床下材などのエコ建材の開発も行った。

◇獣害対策ロープを開発

刺激臭のある植物の抽出液に浸した麻縄でつくった獣害対策ロープ=栃木農業高校提供
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 ユニークなのが、麻縄の強さと吸水性に注目して、トウガラシやハーブ、ニンニクなど刺激臭のある植物の抽出液をしみこませ、ロープにして田畑を囲むことで、イノシシなどの獣害対策に活用することにも取り組んでいることだ。こちらもベンチャー企業と連携し、「環境に優しい里山ロープ」を開発、獣害に悩む各地の農家でテストを行い、電気柵や鉄条網に比べ、設置も簡単で、経費も格段に安く、高齢者にも扱いやすいと好評で、商品化が実現した。

 メンバーの須藤いつみさん(3年)は「プロジェクトを通じて、大麻取締法の問題で後継者が不足になっている現状を知った。麻薬の成分のない大麻でも栽培が規制されていることに疑問を感じたり、それ以外にも農業に関係するニュースに敏感になったり、それまでは気にしていなかったことを考えるようになりました」と話す。

◇「無理がない」から長続き

プロジェクトのメンバーと卒業生に囲まれる小森芳次教諭(右から4人目)
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 小森教諭は「ヨシにしても麻にしても昔の人が実績を残しているもの。お金がかかる大がかりな施設なども不要で、単純明快で無理がないことが大事」という。さらに、企業などと連携して製品化に積極的に取り組んでいることについて、「『環境を守ろう』とか声をかけても、最初は人が集まるが長続きしない。ビジネスと考えて、そんなにもうからなくても、せめてトントンになれば続けられる」と語る。さらに、プロジェクトでさまざまな賞を受賞し、大きな評価を受けていることについて、「生徒たちが晴れやかな場所で表彰されたり、いろいろな場所で発表をしたりすることで自信を持てる」と胸を張る。

 高校には、小森教諭を慕う卒業生も顔を出す。地元の食品加工会社に勤める小宮道久さんは「知らなかった地元のことを考えることが、社会に出てもいろいろな場面で役立っています」といい、植物園に勤務する野村拓史さんは「農業や地域について深く考えるようになり、実際の就職にもつながりました」と笑顔を見せた。小森教諭は今年で定年を迎えるが、プロジェクトがまいた種は確実に芽吹き、次世代へとつながっている。

文・写真=猪狩淳一