食べ物のおいしさを科学的に分析し、マーケティングの視点から開発にかかわり、「味香り戦略研究所」で“味覚参謀”を務める菅慎太郎さんが、流行の食材や味覚のトレンドを語る「味トレンドの隠し味」。第2回は、「掛け合わせ」文化を語る。

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 毎年「食トレンド」の移り変わりがありますが、日本ほど「ブーム」を「文化」に進化させる国は世界でもまれです。90年代の「イタリアンブーム」で、いまや家庭に「オリーブオイル」が常備されるのは普通の光景になりましたし、レストランチェーンも広く人気を得ています。また、「ティラミス」や「ナタデココ」など、新しい海外の素材やデザートが紹介されることで、日本に「スイーツ」というジャンルが確立し、コンビニからファストフード、そしてパティシエの専門店まで幅広い選択肢も広がっています。私たちはそうした「豊かな食文化」を、新しい材料や商品に出合うたびに、「日本食」という食文化の中に取り込んできたのです。

 さて、日本古来の食文化の考え方に「海のものは海、山のものは山」という考えがあります。いわゆる「ご馳走(ちそう)」という考え方ですが、お客様をおもてなしするために、山を駆けまわって食材を集め、来客に振る舞う。それが、お客様に対する「おもてなし」を体現していたわけです。しかし、この「おもてなし」の考え方も、現代では変わってきています。物流が改善され、日本の食材は中1日~2日で手に入れられますし、海外から輸入することも容易になりました。また、インターネットを使って誰でも「おいしい食べ物」や「話題の食べ物」を現地へ行かずとも知ることができるようになり、もはや「食べたい」という日本人の欲求は、世界を食べ尽くしてしまうほどに触手を伸ばしながら、世界各地の食文化と触れ、進化しているのです。

「抹茶が生クリームと合う」といった「掛け合わせ」は、昔は「ありえない」発想でしたでしょうし、昨年口コミではやった「トマト鍋」も、「トマト」を「(鍋で)温める」という、習慣や想像を超えた掛け合わせによって、「意外な発見」や「新しい価値観」を得てきたのです。そこには決まりや方向性も気軽に変え、「まずやってみる」という開かれた発想や寛大さがあります。まさに、ネットの「つながる」という特性が生み出した「味」であったといえるでしょう。

昨今の景況感のなかで、20代~30代の人たちは、「◯◯離れ」という言葉で「価値観が多様化し、とらえにくい」と言われます。けれども、彼らは、「まもる」ことよりも「つながり」や「ためす」ことに意欲的です。そこには、異なる文化や習慣を掛け合わせる、今風に言えば「×(クロス)」することで、むしろ世界とどんどんつながっています。意外な「素材」や「用途」とクロス(掛け合わせ)をする。そこに新たな日本の味がある。そう、若者は「離れた」のではなく、はるか先に「離れて」いったのかもしれません。おいしい「ご馳走」を求めて……。

プロフィル

菅慎太郎(かん・しんたろう)

1977年埼玉県生まれ。早大社会科学部卒業。システム会社に勤務するも、趣味の酒と肴(さかな)のマリアージュへのこだわりから現在の会社へ転職。焼酎アドバイザーの資格を持ち、食べ合わせ、飲み合わせの研究を進める一方、マーケティングの経験を生かし、大学での講義や地方での商品開発や地域特産物の発掘、ブラ ンド化を手がける。Foodoga Live!(インターネット生放送)メーンキャスター、キッズデザインパーク講師。日本味育協会認定講師。渋谷珍味研究会顧問。(所属:(株)味香り戦略研究所 味ブランド戦略部“味覚参謀”)